1485 福島泰樹

目の前にある「福島泰樹全歌集」全3巻。
横幅にして10センチ。
これが数年前からタンスの上に鎮座しているのだ。
絶叫の歌人と言われるが聞いたことはない。
でその中の1冊、第1巻を取り出してぱらぱらと見る。
現代歌人の中でも寺山修司とか岸上大作みたいな代表作がいくつかある人と違って、というか代表作があるのかも知れないがそれは知らない。
佐々木幸綱とか塚本邦雄のような難しい言葉が並んでいるような歌人よりもしかし分かりやすいような気もする。
でぱらぱらとめくってみるが、キンと響くような歌は見当たらなかった。
一首のみを読むのではなく全体を読んでキンとするものがあるのかも知れない。
とにかく短歌については、いや福島泰樹については初心者だから仕方がない。
でも、こんなのは少しキンとする。
・われわれはついには<われ>に帰すべきと焦らず立ちていし歩道橋
・怒りつつふるえているを呵責なき真青(まさお)の群れを人間という
・かわいそうなかわいそうな人さむざむと三機方面隊長佇つ
・ヘルメット手拭軍手火炎瓶わが中核に措きてうつむく
・血痕の浸みていたるをしみじみと見下すわれの卑称は知れど
・ヘルメットささげもつ手のテノールのかなしかれどもこころ決めつつ
・振り翳す斧!反逆の砦とやなにをいまさらうろたえておる
・北総の空につらなるなにあるや破れかぶれの朝の水飲む
・ふかぶかと頭を垂れて坐したるは乗り越え難く目を瞑るため
・・・・ここまで連作である。
書いていると結構ひとつひとつがキンとする。
キンとするとは自分的に言えば心に響くということだ。
70年代の学生運動の匂いがする。
ちょっと出っ張っていてちょっとひねくれているというか斜めに見るような感じ。
「出してみる 現代歌人の 70年代」
「過ぎし日の 雑に紛れている 青き心象」
「血と汗の そここににじむ 世代歌」
「テノールの 声沈み行く 大学構内」0411
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1484 抛物線

ちょっと最近折れそうになっているので詩を読んでみた。
ぱっと開いたそのページ。
「近代の寓話」から「キャサリン」と言う詩
女から
生垣へ
投げられた抛物線は
美しい人間の孤独へ憧れる人間の
生命線である
ギリシャの女神達もこの線
を避けようとするのだ。
十二月の末から一月にかけて
この辺は非常に淋しいのだ。
コンクリートの道路が
シャンゼリゼのように広く
メグロの方へ捨てられた競馬場を
越えて柿の木坂へ走っているが
あの背景は素晴らしい夕陽
さがみの山々が黒くうねって。
この夕焼けを見たら
あなたも私と同じように
恋愛の無限人間の孤独人間の種子の起源
のために涙が出そうに淋しく思うだろう。
杏子色の夕焼け
・・・・以下略
まだこの3倍ほどの長さの詩であった。
どこを切り取ってもはやり西脇順三郎の詩である。
「女」「生垣」「女神」「坂」「種子の起源」「杏子」「夕焼け」
これらの語彙がらしさを出している。
涙が出そうに淋しいって当たり前の心象だがこの中にあると「詩的」になってしまう。
そして何となくほんとに涙が出そうになる。
のは自分だけか。
淋しいから淋しいという言葉を使うのは詩的でないが、なぜかそのままの言葉がしっくり来る。
のは不思議。
「淋しいの で淋しいと言 うのじゃよ」
「恋愛を してみたいぞ 孤独人間」
「夕焼けを 見たら涙が 出そうにな」 るを入れない
「生け垣に 女がいれば それで詩」0410

1437 西脇の雨

西脇順三郎の詩「雨」
やはり第一詩集「Ambarvalia」から「天気」「カプリの牧人」に次ぐ3番目の詩。


南風は柔かい女神をもたらした。
青銅をぬらした、噴水をぬらした、
ツバメの羽と黄金の毛をぬらした、
潮をぬらし、砂をぬらし、魚をぬらした。
静かに寺院と風呂場と劇場をぬらした、
この静かな柔かい女神の行列が
私の舌をぬらした。

雨を「女神」にたとえている優雅さ。
ふくよかさが感じられる「柔かい」という形容詞。
雨の粒が「行列」と表現される新鮮さ。
そして、ぬらす相手の「青銅」「噴水」「ツバメの羽」「黄金の毛」「潮」「砂」「魚」「寺院」「風呂場」「劇場」。
この並びの計算された順番。
そして何より「ぬらし」「ぬらした」「した」という音のリズム。
「した」で韻を踏んでいる。
最後は「私=わたし=したわ」+「舌=した」+「ぬらした」という「した」の連続。
全体を通してギリシアとか外国の地名は出てこないにもかかわらず如何にも地中海的イメージを受けるところがすごい。
・・・今日は雨が降ったので思い出して書いてみた。

1430 旅人

何かの表現をするとき、「突然降りてきた」とか「頭の後ろをがつんとたたかれたようにひらめいた」とか言うことがあるが、西脇の詩は全編がそんな感じのするものばかりである。
コピーライターはみんなそれをねらっているのかも知れない。
キャッチ・コピーという言葉があるが、他人に対して引きつけるという意味よりも先に自分が突然ひらめいてキャッチしたという意味もあるかもしれない。
一般の詩人にしたってある表現はそんな感じで生まれたものかも知れない。
膨大な言葉の海からある言葉とある言葉をくっつけて新鮮なイメージのコピーを作り出すのは容易ではない。
しかし西脇詩ではそれがいとも容易に出来ているような感じがする。
やはり持って生まれた才能、つまり天性のものであるのかも知れない。
「馥郁タル火夫」という詩は、その極致のような詩であるが、西脇のその他の詩は、それに比べればもっと分かりやすい。
「天気」や「カプリの牧人」のようなものと思えばよい。
でもその中に於いて我々の想像を覆すような表現が出てくるところが西脇詩なのである。
「糞」(くそ)を詩の中に入れる詩などは殆ど見ないであろうが、西脇はいとも簡単に「糞」をつかっている。
今回はそれを書き記すことにした。

題「旅人」
汝カンシヤクモチの旅人よ
汝の糞は流れて、ヒベルニアの海
北海、アトランチス、地中海を汚した
汝は汝の村へ帰れ
郷里の崖を祝福せよ
その裸の土は汝の夜明だ
あけびの実は汝の霊魂の如く
夏中ぶらさがつてゐる

今回も575はお休み

1429 馥郁タル火夫3

(馥郁タル火夫の続きの文 「来たらんか火よ!」で終わり)

「何者か藤棚の下を通るものがある。そこは通路ではない。
 或は窓掛の後ろより掌をかざすものあれども睡眠は薔薇色にして蔓の如きものに過ぎない。
 我は我の首飾をかけて慌しくパイプに火をつけて麦の祭礼に走る。
 なぜならば巌に水の上に頤を出す。訶梨勒を隠す。
 筒の如き家の内面に撫子花をもちたる男!
 ランプの笠に関して演説するのではない然し使節に関して記述せんとするものだ。窓に倚りかかり音楽として休息する萎縮病者の足をアラセイトウとしてひつぱるのである。
 繁殖の神よ!夢遊病者の前に断崖を作りたまへよ!オレアンダの花の火。
 桃色の永遠に咽びて魚をつらんとする。僧正ベンボーが女の如くささやけばゴンドラは滑る。
 忽然たるアカシアの花よ!我はオドコロンを飲んだ。
 死よさらば!
 善良な継続性を有する金曜日に、水管パイプを捧げて眺望の方へ向かんとする時、橋の上より呼ぶものあれば非常に急ぎて足を全部アムブロジアの上にもち上げる。すべては頤である。人は頤の如く完全にならんとする。安息する暇もなく微笑する額を天鵞絨の中に包む。
 コズメチツクは解けて眼に入りたれば直ちに従僕を呼びたり。
 脳髄は塔からチキンカツレツに向って永遠に戦慄する。やがて又我が頭部を杏子をもってたたくものあり。花瓶の表面にうつるものがある。それは夕餐より帰りしピートロの踵。我これを憐みをもつてみんとすれどもあまりにアマラントの眼である。
 来たらんか、火よ!」

見慣れない言葉が又いくつか出てくる。
「訶梨勒」(かりろく)とはインド原産の植物で袋に入れてつるす。あるいは象牙・銅などで作った飾りのこと。匂い袋のようなものである。 
頤はおとがい、おとがいとは人の下あごのこと。
この言葉は3回も出てくる。
天鵞絨はビロードのこと。
相変わらず無関係に思える言葉がつながって文が進んでいく。
詩人の頭の中に浮かんだ言葉が少し練り合わされて、或いは混合されて、或いは引き離されて詩が作られていく感じ。
そして詩人の意識が流れていく。
その意識の流れにその言葉が乗って詩となっていくのだ。
「意識の流れ」というのは丁度西脇がロンドンに留学している頃ジェイムズ・ジョイスによって始められた文学上の技法である。
ジョイスの「ユリシーズ」はその代表作品。
その意識の流れに乗って書き表していくと自然とシュールな詩になるみたいだ。
しかしそれにしても難解といえば難解。
一体何の事やら当たり前の現実がない。
現実が破壊されているといっても良い。
しかし、それが文学的味わいを出している。
非現実でなくて超現実。
虚構でなくて超虚構。
って勝手な言い方だけどそんな気がする表現方法だ。
絵画でいうところのダリの「記憶の固執」という絵の溶けていく時計と同じだ。
断定的な言い方や、命令文がよく出てくるが面白い。
頻繁に使われる「!」
日本の詩に「!」を持ち込んだのは西脇が最初ではなかろうか。
「死よさらば!」
「脳髄は塔からチキンカツレツに向って永遠に戦慄する。」
「来たらんか、火よ!」
脳髄は・・・という文はいいなあ。
今日も575が出てこない。0212
プロフィール

Author:JAZZY
田舎親爺のつれづれ日記。記憶を記録に、記録を記憶に。
Jazz大好き、クラシックも大好き。
JAZZYは邪爺ことよこしまなじじい。
生き馬の目を抜くような世の中、ちょっと立ち止まりしゃがんでみよう。そして斜眼で見える世相を書いてみたい。

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