1046 若者よ

FB友だちの伊藤千尋(元・朝日新聞記者)さんの投稿からコピペ。
歴史の中でなかなか出会えない一瞬に出会ったと言える一文。
極限状態においての一人の若者の振り絞るような勇気の言葉に氷りつくほどの感動をしたということだ。

若者よ、立て
 南米チリの軍事独裁時代の市民の民主化の闘いを何度か書きました。僕が当時、最も感動した光景を記しましょう。ローマ法王ヨハネ・パウロ2世がチリを訪問したときのことです。
 首都サンティアゴに国立競技場があります。1973年に軍部がクーデターを起こしたとき、軍部が市民を集めて虐殺した場所です。名高い歌手ビクトル・ハラもここに連行されて殺されました。
 1987年4月、この競技場は8万人の若者たちで埋まっていました。青年による法王の歓迎集会が開かれたのです。僕はスタンドにしつらえられた記者席に座っていました。競技場の芝生の中心に椅子が置かれ、真っ白な法衣を着た法王が座っています。
 チリが領有するイースター島の民族舞踊が披露されたあと、法王から10メートルくらい離れて立つマイクの前に若者が進み出ました。プログラムを見ると、彼は若者を代表して歓迎の言葉を述べることになっています。名前はフレディ・オルメニョ。中学生です。
 ところが、彼はマイクの前でうなだれたまま、一言も発しません。彼は緊張のあまり上がったのだと僕は思いました。そのまま、かなりの時間がたちました。
 彼はやおら顔を上げました。法王を見つめ、しっかりした声で語り始めました。「法王さま、ようこそいらっしゃいました」という言葉のあとで彼が語ったのは、予想もしない言葉でした。
 「僕の胸のポケットに『歓迎の辞』が入っています。政府が検閲し僕に読ませようとしているもので、これを述べることはウソを語ることになります。あなたを、そしてチリ国民をも裏切ることになります。僕はウソをつけない。個人的な発言をしたい。チリの真実を語りたい」
 そのうえで、今のチリには民主主義がなく、若者たちは苦しみ恐れ、国民は虐待されている、と彼はまくしたてました。最後は「この軍政の国には社会正義がない。僕たちは喜んで不平等を打破したい」と締めくくったのです。
 この若者は、軍政から選ばれた優等生です。素直に歓迎の辞を読めば将来も約束されていたでしょう。それを自ら蹴って、弾圧を覚悟し、いや命をかけて真実を述べたのです。
 一部始終は国営放送のテレビとラジオで中継され、生放送されていました。全国に彼の発言が流れました。クーデター以来、報道を完全に検閲してきたこの国で、反政府の言動が電波に乗って流れたのはこれが初めてです。僕の周囲で軍政の高官たちがざわめきました。
 法王は立ち上がって、マイクの前に立ちました。歓迎の辞に対する答辞です。草稿はあらかじめ僕にも配られていました。草稿を見ながら僕は法王の言葉を聴きました。法王は最初、押し殺すような声で語りました。「かつて悲しみと苦痛の場であったこの地で今、若者に繰り返し言おう」。それはこの競技場がクーデターのさいに虐殺の場であったことを指しています。
 さらに法王は両手を広げ、叫ぶように、草稿には書かれていない言葉を何度も口にしました。「フスティシア・ソシアル(社会正義)」です。中学生の彼が語った言葉です。今のチリには社会正義がない、いま必要とされるのは社会正義だ、と語ったのです。その最後にこう語りかけました。
 「若者よ、あなたがたの責任を果たしなさい。祖国の将来はあなた方にかかっている。社会を変革しよう。より人道的なチリを建設できる。新たな共同体、より正しき社会の建設の主役であれ。若者よ、立て!」
 法王は若者たちに、まるで軍政打倒をけしかけるかのような言葉を投げかけたのでした。翌年の国民投票で、チリは軍政から民主主義に移行することになったのです。なにやら暗示的ではありませんか。
 その光景を今、思い出します。原発反対から出発し、国会前で発言した日本の若者たちを見たとき、僕にはこの光景が浮かんだのでした。チリの若者に続いて今、日本の若者も立っています。

「一瞬の 勇気の裏に ある歴史」
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田舎親爺のつれづれ日記。記憶を記録に、記録を記憶に。
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